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piece 「・・・瞬間移動とか出来んのかお前は。」 「出来ん。漫画の見すぎだインテグラ。ブラム・ストーカーを読み直せ。」 インテグラはムカッ腹がたったが、今殴り飛ばせるような状況ではない。 アーカードはインテグラを抱きしめロンドンの市街上空を飛んでいるのだ。 実体を持たない、黒い蝙蝠の様な翼はゆっくりと羽ばたいている。 クロムウェルを何式か限定解除し、 今の姿は地下室で出会った時の姿をしていた。 「何も飛ばずとも車で行けば良いのに・・・。」 「向こうに勘づかれたからな。逃げ出す前に向かう。車では間に合わん。」 確かに結構スピードが出ている。 今、この高さで腕を離されたら即死するだろう。 思わずインテグラが腕にしがみつくと、アーカードは器用に方眉を上げた。 「今夜は随分と積極的だな、インテグラ。」 「この状況だと仕方ないだろう! お前が私を離さん確証はどこにも無いんだからな!」 後ろから抱きかかえられる様にして 拘束されているインテグラは不安を訴える。 「それは心配ない。この古都の灯りの中、腕に抱いた女を離す男はおらん。」 「・・・?・・・暗い場所だと離すのか?」 妖艶に笑う男にインテグラは素っ頓狂に返した。 「浪漫の話をしているのだ。」 一呼吸置いて、呆れる様に溜息をつく不死者の王をインテグラは睨みつける。 「浪漫?こんな時に意味の分からん奴だな・・・。」 アーカードもこの女はこういう所はガキの頃のままだ、 と諦観の笑みを浮べた。 ーーーーー実を言うと車を使っても十分に間に合うのだが、 ここ最近の女主人は自分の従僕に見向きもせず、 あのパズルにばかりかまけていたので 意趣返しをしたかっただけなのだ。 少し痩せたとはいえ、しっかりとした作りの肢体は 抱いている男を魅了してやまない。 「・・・っこら!どこ触ってる!!」 思わず首筋に顔をうずめ、女の甘い香りを貪る様に吸い込む。 当然の様に柔らかな腿へと皮の手袋が滑る。 「やめんか!アーカードっ!」 インテグラが繰り出したエルボーが見事に決まり、 アーカードは思わず失速した。 うらめしそうに睨むアーカードを完全無視し、インテグラは下を見た。 「セラスに聞いた所だと、ここらへんじゃなかったか?」 「・・・・・・・・・・。」 「・・・何だよ、その目は。言いたい事があるなら言え!」 「べつに。」 ふて腐れたアーカードはインテグラを抱きなおし、 ふわりと地上に降り立った。 人通りの少ない路地の骨董屋は灯りも灯さず、しんと静まり返っていた。 軽くガラス戸を押してみると鍵は掛かっていないらしく、ゆっくりと開いた。 耳に痛いほどの静寂の中、インテグラとアーカードは店内を探り歩く。 ふと、前を見ると奥の部屋から明かりが漏れていた。 インテグラは銃の安全装置を解除し、 いつでも迎え撃てる様に構えつつ扉を蹴破った。 そこにあったのは古めかしい美術品などではなく、 装飾された『人間』の成れの果てであった。 一人や二人ではない、十数人が剥製にされ、装飾されていた。 部屋の中央には、若い女性が殊更に飾り立てられ椅子に座っていた。 まるで生きているかの様に瑞々しい肌に、薔薇などの植物が植えつけられ 片方の目はくり抜かれ、大粒の宝石がはめ込まれている。 「これは・・・、本当に人か?・・・なんて事を・・・。」 呆然と、剥製にされた人間をインテグラは見やる。 「おそらくこの店の本来のオーナーだろう。しかしセンスの悪い飾り方だな。 人間と言う物は、特に女は 裸に剥いて褥に寝そべらせておくのが一番美しい飾り方だ。」 そうだろう?と視線をインテグラへと向ける。 「・・・この馬鹿!この状況で何を言っている!色情狂!変態!!」 信じられん!とインテグラが声を荒げた、その時だった。 「お取り込み中、失礼。」 ばっと振り向いたインテグラの前に一人の若い男が立っていた。 「ようこそ、ヘルシング局長インテグラル殿。お待ちしていましたよ。」 両手を後ろで組み、赤い瞳をこうこうと光らせている。 「あのパズルはお気に召して頂けましたか? 並みの人間なら3日で生気を抜かれて死んでしまうのに ・・・貴女は素晴らしい。」 うっとりと呟く様にインテグラへ話しかける。 「あのパズルは私のお気に入りでしてね、 気に入った相手にしか差し上げないのです。 ・・・もっとも、直ぐに手元に戻ってきてしまうのですけれどもね。」 「黙れ、化け物。 貴様なんぞにつきあっている暇など無い!よくも私を・・・」 「小僧、私のものに手を出してただで済むと思うなよ。」 地を這うような声色が真後ろから聞こえ、 制止する間も無くジャッカルが火を噴いた。 「アーカード!」 「仕事場に情人を連れてくるとは、余裕ですね?インテグラル殿。」 また数発、ジャッカルから弾丸が放たれ、左腕が吹き飛んだ。 「おやおや。」 平然と何事も無かった様にもがれた自分の左腕を見やる。 「随分と無粋な挨拶ですね。粗野で乱暴すぎる。 それに法儀済の銃弾など、私には効きませんよ?」 すぐさま左腕の再構築を行い、店主だった物へと近づく。 「この美しさが分からないなんて・・・貴方こそ趣味が悪い。」 剥製を愛おしそうに撫でる。 「私は貴女をコレクションに加えたいんですよ、インテグラ。」 背中を這い上がる嫌な視線をインテグラへと向け、舌なめずりをする。 思わず装填していた銃を続けざまに発砲するインテグラ。 しかし男は怯む気配も見せず、にやにやと笑い続けている。 「この店主も親の跡を継いだばかりの初々しい女性でした。 人並み以上に努力をして、店を切り盛りしていた。 その努力を根元から摘み取る愉しさ! 最高に美しい今、この時を閉じ込めて 芸術品に昇華させるのが私の生きがいなのです。」 「拘束制御術式第壱号開放。」 声が響くと共に黒い影が部屋中を覆う。 アーカードの胸に巨大な目が現れ、長い黒髪が虫や蝙蝠へと変質してゆく。 「貴様の悪趣味なコレクションに我が主を加えるだと?・・・馬鹿が。」 音も無く化け物の後ろへと滑り込むと片手で首の根元を掴み、 音を立てて千切れんばかりに握り締めた。 化け物は悲鳴を上げる間も無く、四肢をもぎ取られ床に叩きつけられた。 逃げようともがくが、アーカードのあまりの速さに直ぐに追いつかれる。 「簡単な話だ。再構築が終わる前に叩きのめせばいい。」 足で蹴り上げると犬の様な悲鳴を上げ、のた打ち回った。 血が方々に飛び散り、インテグラのスーツの裾を汚した。 それに気付いたアーカードは化け物の心臓を握りつぶし、 化け物に止めを刺した。 「任務完了だ、インテグラ。 下らんマスターベーションを見せ付けられた気分だ。」 ふん、と息を吐き、暴れ足りない様に大股でインテグラの方へと戻ってくる。 「・・・・はぁ。」 この男の下世話な物言いには慣れるしかないのかと眉間を指で押さえた。 |
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