piece


街から帰ったセラスは早速インテグラにジグソーパズルをプレゼントした。
仕事の疲れをこれで癒して欲しいと言う気持ちは非常に有難いが、
ジクソーパズルは逆に疲れそうな気がする
・・・とは本人にはとても言えなかった。
時折空回りするが、吸血鬼になっても他人への気遣いは薄れない少女に
インテグラは好感を持っていた。
早速執務室で箱を開けてみると、細かなピースがぎっしり詰まっていた。
『結構長期戦になりそうだ。』
少しわくわくしながらピースの一つを手に取る。
幼い頃は休日に父とこういった遊びをたくさんした。
自分が生まれた頃にはもう父は高齢だったので屋敷の中で遊ぶ事が多かった。
機関の仕事で忙しかっただろうに、暇さえあれば私と遊んでくれた。
懐かしい気持ちになりながら、パズルを解き始めた。
少し経ってわかったのだが、白いジクソーパズルという物は意外に難しい。
解読のヒントとなる絵柄が全く無いのだから、
ほとんど勘で進めていくしかない。
しかもこのピースはツルツルな物もあれば
ざらついた感じのものまであり、手触りがバラバラだった。
『・・・何か・・・変だな。』
パズルをしている間は、誰かに見られている様な視線を感じる。
粘ついた視線がまとわり付くが、
振りほどく気すら起きずひたすらにパズルに没頭する。
そのうち時間の感覚がなくなり、 部屋が薄暗くなっていった。


昨夜は出勤要請は無く、よく眠れたインテグラだったが
朝起きて考えるのはあのジクソーパズルの事だった。
円卓会議の間も頭から離れず、 ウォルターにまた心配されてしまった。
気が付くとパズルの入った箱を持っている自分がいて、
インテグラは大いに悩んだ。
だが、やめられない。
何かに取りかれたようにパズルに惹きつけられる。
ただ、パズルをするともれなく絡んでくる
あの視線がたまらなく嫌だった。
どこかで感じた事のある、覚えのある視線に肌が粟立つ
そのせいもあってか、インテグラは日々少しずつやつれていった。
『遊びに夢中になって、仕事が疎かになるなど・・・・
ヘルシング機関局長として下の者に示しがつかん!何とかせねば・・・。』
その気持ちも箱を目の前にすると崩れていってしまいそうになる。
パズルを買ってきたセラスも、責任を感じてか、
インテグラの様子のおかしさにしょっちゅう様子を見に来る様になった。


パズルを解きだしてから5日経った。
半分は完成していて、コツも掴めてきたのであと3〜4日程で完成しそうだ。
『完成したら今度こそ仕事に身が入るな。あの視線ともおさらばだ。』
インテグラは自室の窓辺に寄りかかり、葉巻をふかしていた。
見るからにやつれ、 頬がこけ、月の青白い光が仄かに影をつけた。

「流石にお疲れの様だな、我が主?」

ノックも合図も無しに壁から出てきた不死者の男はからかう様に声をかけた。
「アーカードか。
部屋に入るならノックくらいしろといつも言っているだろう。」
いつになく覇気のない声に、アーカードは僅かに眉根を寄せた。
「察しの通り、私は疲れている。
今夜も出勤要請は無いようだからお前には用は無いぞ。」
暗に『寝床に帰れ。』と言ったつもりだったが、
アーカードには伝わらなかった様だ。
「お前は用が無くても、私にはある。
婦警からパズルを譲り受けたそうじゃないか?
そのせいで疲れているのだろう?」
「うるさい!お前には関係ないだろう!たまの息抜きをして何が悪い!」
従僕に馬鹿にされている様で、思わず声を荒げてしまう。
急に大声を出したせいでひどい立ちくらみがする。
インテグラはソファに深く座り込み、深々と溜息をついた。
「・・・すまん、言い過ぎた。確かに最近の私はおかしい。
セラスが心配する程だ。
遊びすぎで疲れて、自己管理がまともに出来ていない。
・・・でもまさかこんなに嵌るとは・・・」
「嵌って当然だ。あれには魔が憑いている。」
「・・・は?」
自分の言葉を遮ったアーカードの言葉に耳を疑う。
「完成させたら死ぬぞ。生気を吸い取られてな。」
思わず作成途中のパズルを見た。
何の変哲も無いただのパズルだ。
そんな禍々しい雰囲気も微塵も感じられない。
「当たり前だ。それはあくまで媒介にしか過ぎん。
あの半端者め。何の疑いも無く我が主にこんな物を渡しおって。」
吐き捨てるように、ここにはいないセラスを蔑んだ。
「じゃあ、あの纏わり付く様な視線も・・・。」
「いや、それは私だ。」
事も無げに言い放った一言にインテグラは凍りついた。
・・・どうりで覚えがあるわけだ。
あの粘っこい視線は、ふとした時に従僕が
自分に向ける視線に似ているとは感じていた。
まさかアーカード本人だとは思わなかったが。
「という事は・・・お前初めからこのパズルの事を知ってたんだな!?
なのに今更のこのこ出てきてっ!
分かってて黙っていたなんて・・・アーカードっ!!」
「そんなに大声を出したらまた立ちくらみを起こすぞ。」
そう言ってインテグラの机に近づく。
ひょい、と一ピース箱の中から摘み出したアーカードは
おもむろにそれを口に含んだ。
「ふむ・・・成る程。」
「なっ・・・何してるんだお前・・・。」
あっけに取られたインテグラはその状況を見守るしかない。
「このパズルのピースは人骨で出来ている。
大方、このパズルに魅入られた者達の末路だろう。一人や二人ではない。」
自分もその犠牲者の一人に成りかけていたと思うと、気が気ではない。
「さぁ・・・我が主、ご命令は?」
大柄な男が紳士のように礼をとる。
「・・・サーチ・アンド・デストロイ(見敵必殺)だ。
この私を狙ったんだ。二度殺せ。」

不遜の王は化け物らしい狂気に満ちた笑みを浮かべた。