piece


ぱちん、ぱちん、とピースをはじく音が薄暗い部屋から聞こえる。
すっかり日も落ち、日の明かりが乏しくなった執務室の中で
インテグラはパズルを解いていた。
ジグソーパズルらしき物が広いテーブルに散らばっている。
もう何時間こうしてパズルを解き続けているだろう。
数時間前に火を付けた葉巻が何本もすっかり焼け落ちている。
カーテンの裾からは僅かばかりに月の光が差し込んでいるが、
延々とパズルを解いている。

「お嬢様、・・・何もこの様に暗い中でパズルを解かずとも・・・」
夕食に降りてこない主人を探しにきたウォルターが部屋の明かりを灯けても、
インテグラは全く反応せずにピースをいじっている。
「お嬢様?」
執事の再度の問いかけに、
やっとインテグラは部屋に明かりが灯いているのに気づいた。
「あ・・・あぁ、ウォルターか。すまん。
・・・おっと、もうこんな時間か!」
夕食の時間だな、とあわててピースを箱に直す。
「お嬢様、それは?」
怪訝そうにウォルターが箱を見つめる。
「今日、セラスが街中で買ってきてくれたんだ。ジグソーパズル。
以外にハマルぞ。子供の頃を思い出すんだ。」
はにかみながら笑うインテグラに、ウォルターは優しく微笑んだ。
「左様で。
しかし、いくらなんでも部屋の電気を灯けずにするのは感心できませんぞ。」
「そうだな。気を付けるよ。」
上着を羽織ながらインテグラとウォルターは執務室を後にした。
再び暗闇となった部屋の中で、箱が小さくカタカタと震えた。


その日、セラスは久方ぶりに街中に来ていた。
新米とはいえ吸血鬼なので、日傘を差し帽子を目深にかぶって歩く。
しばらくはそれでも大丈夫だったが、数十分も経つと
あまりの日差しの強さに眩暈がしてきた。
ふらふらしながら街角の一角の店に非難すると、そこは骨董品店だった。
古めかしい、しかし美しく齢を重ねた芸術の品々が丁寧に飾られていた。
セラスは絵画や芸術品には見識が無かったが、
見るからに高そうな品々を前にして、
若干店のチョイスを誤った事を悟った。
『どっ・・・どうしよう、
明らかにお金持ち向けのお店なんですけどぉ・・・。
一旦入ってしまったからには出にくいし・・・。』
「いらっしゃいませ。何かお探しの品はございますか?」
ゆっくりと出口に向かってにじり寄るセラスに、若い男の店員が声をかけた。
「お客様?」
『こっ、声をかけられてしまったぁ・・・』
ギギギギ・・・と音が出そうな程軋ませてセラスは振り向く。
声をかけられたからには何か買わなければいけない、
と観念したセラスは開き直った。
「ええ、ちょっと下見がてら・・・。」
『あたしのばかッ!何ミエはってんのッ!!』
口からポロリと出てしまった言葉は元には戻せない。
「観賞用の品をおさがしですか?
・・・あぁ、どなたか想われる方にプレゼントですか?」
にっこりと涼しげな顔立ちに微笑みを浮かべて、問いかける。
一瞬、想う方と言われて
ベルナドットよりインテグラを思い出したセラスは大汗をかいた。
「ぷっ、プレゼント用なんですけどっ・・・なるべくお手頃な物で・・・。」
脳内の煩悩を振り払い、店員に告げた。
「その方は、どういった物がお好きですか?ご趣味とかは・・・?」
「えっと・・・貴族なのでお酒や煙草はお部屋にたくさんありますし、
いつも仕事熱心で夜遅くまでお仕事なさってます。
ホント趣味が仕事って感じで・・・。」
真剣に悩み始めたセラスをよそに、店員は一言二言セラスに話しかけ、
奥から布に包まれた小さな箱を持ってきた。
「こちらなどいかがでしょう?」
アンティーク調の小机に箱を乗せ、包みを解いていく。
「お仕事で疲れている時には、気晴らしが一番です。
こちらのジグソーパズルなんてぴったりだと思いますよ?」
「うわぁ〜可愛いですね!ピースちっちゃ〜い!」
箱の中には小さな真っ白いピースが所狭しと入っていた。
「全て白いピースですから、
完成までに時間がかかりますので長くお楽しみ頂けますよ。」
「じゃぁこれにします!おいくらですか?」
「・・・お客様のその相手の方を想われる心に感銘を受けましたので、
特別に無料でさしあげますよ。」
「えっ!いいんですか!?」
男はゆっくりと頷いた後、落ち着いた爽やかな笑顔を見せた。
「勿論です。プレゼント用にお包みいたしますね。」
店員はそう言って背を向け奥の部屋へと消えていった。
『うわぁ、めっちゃラッキー!』
心の中で小さくガッツポーズを決めたセラスは、
背を向けた店員の、
ふとした冷たく底光りする赤い瞳を見る事はできなかった。