Change!



その日の帽子屋屋敷は騒然としていた。

門番や幹部に収集が掛けられ、
いつも庭に常設されている茶会のテーブルまでもが片付けられている。
一種の妙な緊迫感の中、屋敷の最奥に進むにつれて
より一層それが密度をましてゆく。
開け放たれたブラッドの部屋のドア越しに、いつものメンバーが揃っている。
ボスであるブラッド、NO.2のエリオット、双子の門番達、眠りネズミのピアス。
そして余所者の女、アリス=リデル。
ところが奇妙な事に、そのボスであるブラッドは
いつものトレードマークの帽子を被っていない。
そのため、燕尾服もどきのスーツが完全に浮いていた。
対するアリス=リデルはカクテルハットを斜めに被っていた。
白を基調とした服に、黒いレースが映える。
楽しそうに紅茶を口にするその姿は正に完璧な淑女。
目の前の頭を抱えて、苦悩の表情を浮かべる男とは正反対に
どこまでも落ち着き払っていた。
その様子を目の端に常に捕らえながらアリスは口を開く。

「いい加減、この状況を受け入れてはどうだ、お嬢さん。」
アリスの口から、アリスらしからぬ口調で諌めの言葉がでる。
「・・・無理よ。ありえないもの。」
それに対する返答もブラッドらしからぬ、男らしからぬ口調だった。
「大体、何で急にこんな・・・・ほんとこの世界ってムチャクチャね。」
かすれた、消え入りそうな声と共に首を振る。
背中で二人の会話を聞いていたエリオットは、心の中でひっそりと溜息をついた。

事の始まりは二つくらい前の時間帯だった。
ボスの部屋から、今まで聞いた事も無いブラッドの奇声が聞こえた。
とうとう二つ名の通りイカレてしまったかと、
メイドもフットマンも総出でブラッドの部屋へ駆けつけた。
そこにはいつものブラッドが決して浮かべるとも思えない
感情をむき出しにして慌てふためく姿があった。

当事者のアリスの言い分はこうだ。

アリスが目覚めた時、ブラッドの寝室で寝ていた筈なのに
いつの間にか見知らぬ女が当然の様にベッドに寝そべっている。
長い金髪を掻き集めたシーツに散らせて
背中を向けて寝ている裸の女。

アリスの寝ぼけていた頭に一瞬にして血が上る。
(ブラッド・・・あんたって男はホントに最っ低ね!)

腹の底から込み上げる吐き気に似た、
例え様の無い感情を噛み潰しベッドから降りる。
「・・・・っ最悪。」
思わず出てしまった声が低い。
聞きなれた、でも今は神経を逆撫でする声にアリスは驚いた。
(い、いま喋ったの・・・私よね?)
「・・・あ、あー、アー・・・・」
真横で寝ている女に気付かれぬように
声を潜めて発声練習もどきの声を上げる。

そしてしばらく固まる事15分。

頭が真っ白なまま、無言で鏡に向かう。
そこに映っていたのは・・・・

癖のある中途半端な長さの黒髪。
緑色の瞳、あるはずの無い喉仏。
その年代特有のふくよかさをもっていた頬のラインも
完全に男性的なシャープなラインを描いていた。
鏡に映る姿は帽子屋ファミリーのボス、ブラッド=デュプレ。

よくよく周りを見渡してみれば
床にはいつも自分が着ている少女趣味の服とリボンが散乱している。
呆然としていると、寝ていた女が起き出した気配がした。
「ん・・・アリス?起きたのか?」
擦れてはいるが寝ボケ声は明らかに少女の声。
恐る恐る振り向くと、同じ様に驚愕の顔色を浮かべた
アリス=リデル・・・・自分がそこにいた。

「で、入れ替わった原因は分かったのか?」
目の前の紅茶を飲み下して、楽しそうに問いかけるのは
アリス・・・・の姿をしたブラッド。
「今の状況を受け入れるだけで精一杯よ。」
両手を開いたり閉じたりを繰り返すアリスに
ブラッドはますます笑みを深めて、直ぐ傍へ寄った。
「リボンがずれてるぞ、アリス。」
含んだ笑顔でリボンのタイを解き、殊更ゆっくりと結び直す。
胸元に手を乗せ、口元だけで軽く笑う。
同じ自分の体なのに、どうしてこうも色気が出せるのか。
自分相手にどぎまぎしながら
「・・・ブラッド、あなた順応能力高すぎよ。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
「まるで元から女だったみたいだわ。
まぁ、ネチネチした女の腐った様な部分もあったし、
ぶっちゃけその姿の方がお似合いかもね。
あとあんまり喋らないで。恥ずかしいわ。」
「君こそその口調をどうかしたらどうだ。薄気味悪い。
これだけ一緒に居るんだから、私の口調くらい分かるだろう。」
「そっちこそ。そんな芝居がかった口調、いい加減止めてくれる?
私が変人だと思われるじゃない。」
「これはこれは、随分だな。しかしずっとこのままという訳でもないだろう。」
あけすけなやり取りで一方的に不機嫌になっていくのはアリスだけだ。
ピアスがおろおろと二人の口喧嘩を止めようとしたが、 ペースが速すぎてついていけていない。
必死でエリオットに視線で助け舟を出すが、
エリオットも、双子達も明らかに自分から目を逸らしている。
アリスが胃が痛くなるほど悩んでいるのに、
ブラッドときたら、まるで他人事の様に気にも留めていない。
それどころかどこか機嫌が良さそうだ。

「・・・・あんた、何でそんなにご機嫌なの?」
口調に険を残したまま、ブラッドに問いかけた。
ん?と何でもない事の様に言葉を返す。
「君の姿をしていれば、君が私の物だと宣伝ができる。
実に良い気分だ。君に寄って来る虫どもも牽制できる。
この機会に、私が人間関係をすっきりさせてあげよう。
・・・・元・私が付けた痕もまだ残っているようだしね。」
髪をゆっくりとかき上げると、左の鎖骨付近に鬱血した痕が幾つも残っている。
瞬間的に体温が下がったアリスは(姿はブラッドだが)
とっさに足を踏みつけ様としたが、標的が自分の体だと思い当たり
にわかに項垂れて、また頭を抱えた。
「・・・どうしたらいいの?」
「まぁ・・・確実に役持ちの仕業だろうな。」
エリオットが呆れ顔でアリスに応えた。
「という事は、一人一人潰して行けば確実に当たりは来ると言う事だな。」
「私の体で物騒な事しないで。」
肩をすくめて、おどけた様にこちらを見るブラッドは
どうにも今言った事が理解できているとは思えない。
「分かったよ、お嬢さん。
とりあえず君は事の真相が分かるまでは屋敷から出るな。」
「・・・・は?冗談でしょう?」
「当面のボスの仕事はエリオットに任せておけばいい。」
「あぁ、心配いらねぇぜ、アリス。
俺が全力でブラッド・・・じゃなかった、
あんたのフォローに回るからよ!」」
「そんな事より帽子を被らないか、アリス。
あれは私の分身とも言える存在なんだぞ?」
「あっそ。それなら尚更嫌よ。
あんな帽子被った日には頭が沸きそうだわ。
それに外に出られないなんて絶対イヤよ!」
癖のある黒髪を掻きながら睨みつける。
アリスが入れ替わっているせいか、
いつもの独特の凍り付く様な視線はそこにはない。
ふん、と鼻で笑ったブラッドは視線を初めて外野へ向けた。

「この10時間帯の間に、私の暗殺を謀ろうとした案件は何件ある?」
一人のフットマンがブラッドの前で礼を取り、抑制もなく答える。
「実行犯を始末済みの物は24件、計画の段階の物は39件、
微細な物を含めると総計72件です。
未始末の物は、既に刺客を遣っていますのでご安心を。」
「だ、そうだ。アリス。」
分かっただろう?と小首を傾げてアリスを見やる。
「私には敵が多い。その姿で無用心に出歩かれると、
私は明日にでも時計屋の世話になってしまうよ。」
青くなったアリスを放置して、
まるで他人事の様につまらなそうにブラッドは紅茶をすすった。





入れ替わっちゃった二人のお話。
突然アリス(中身はブラッド)から、他の男と交際中宣言がでたら
ペーターとか七種類の奇声を発して身悶えるでしょうねv
歩く18禁は誇張して話すに違いないww
それを心底楽しく観察するブラッド、悪魔だ。
続きます〜。