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Gjakmarrja 色とりどりのチップが軽く音を立てながらグリーンの盤上を行き来する。 周りには軽快な音楽と共に賭けに興じる紳士・淑女たち。 それにも負けず、毛皮のコートに悪趣味な大振りの宝石をあしらったアクセサリー。 これでもかこれでもかと飾り付けられたアリスは浮いていた。 数時間帯前、豪奢なドレスを着せられアリスは屋敷から連れ出された。 屋敷に監禁されるのだと思っていたアリスは、訳も分からず付いて行くしかない。 (こんな真夜中に屋外で殺されるなんて・・・。) 悲観に暮れるアリスはとぼとぼと歩かされる。 自分の死体は時計に戻らないのだから、 気付かれずにずっと放置され続けたとなると、相当無残な結果になるはず。 というかできれば、いや、絶っ対に死にたくない。 善良な一般市民がマフィアの抗争に巻き込まれて死ぬなんて理不尽だ。 アリスの胸に怒りがふつふつと湧き出してきた頃、 前方に明かりが見え始めた。 あの明るさは・・・遊園地だろうか? 七色のランプが闇に揺らめき、星空を一際明るく飾り立てる。 やがて遊園地かと思われたそれは、街外れの大規模なカジノだった。 てっきり殺されると絶望していたアリスには、それは不可思議なものに見えた。 カジノに足を踏み入れた瞬間、黒服の部下がアリス達を出迎えた。 カウンターにいたディーラーも一同揃って車椅子の男へ向き直る。 「ここは我らヴィトー一家のカジノだ。寛いでくれアリス。」 黒服の男達にアリスをゲストルームへ案内する様に指示を飛ばす。 両腕を掴まれ、奥まった個室へ強制的に引き摺って行かれる。 誘導なんて優しいものではない。それは連行に近かった。 しかも背中に拳銃の硬い質感がずっと付き纏っている。 (いい加減にしてほしいわ。冗談じゃないわよ。) 悪態を付きたくてもつけないこの状況に、アリスの鬱憤は爆発寸前だった。 そして怒りと同等の、いやそれ以上の恐怖がアリスの胸を押しつぶす。 似合わない毛皮の袖を力一杯握り締める。 奥歯を噛み締めていないと、状況の恐ろしさに体が震えてしまう。 既に足が自分の物でない様にぎくしゃくと動き、 男達の腕がなければ、その場に崩れ落ちそうだった。 長い長い廊下を抜け、外に繋がる回廊をひたすら歩かされる。 夜風がアリスの頬を撫でるが、アリスにはその感覚さえも感じる事ができなかった。 途中途中で見た部屋部屋にはめかし込んだ女や 化粧を施された少年が部屋の戸に立ち、面白そうにこちらを見ている。 (・・・私もこんな扱いを受けるはめになるんだろうか。) 唇を噛み締めながら、必死で泣くまいと目を瞑る。 まるで自分が悪夢の中にいるようだ。 ナイトメアが見せる果てのない幻想の闇とはまた違う。 不思議と自分を冷静に見ている自分もいる。 ブラッドの言うとおりに大人しくしていなかった自分。 流されるまま。周りの流れに身を任せるしかできない。 「この娘が例の余所者か、カルロス?」 ゲストルームの扉の向こうには丸い大きなテーブルが置いてあり、 そこに腰掛けた男がアリスを見止めて葉巻を灰皿に押し付けた。 面白そうに唇を歪めて近づいてくる赤髪の男もまた 明らかに堅気ではない雰囲気を出していた。 アリスの後に部下を引き連れて部屋へ入ってきた車椅子の男、 カルロスと呼ばれた男は止めもせず、部下に酒の用意をさせながら言った。 「こいつは私の弟、エイデンだ。 簡単に言うと、君の所で言うエリオット・マーチと同格だな。」 「ようこそ、アリス。君の訪問を心から歓迎するよ。」 赤髪の男が膝を突き、アリスの手の甲へキスを落とす。 「そう、やっぱり兄弟ね。品定めする様な嫌な視線がそっくりだわ。」 一瞬の間を置いて、アリスへの嘲笑の笑いが沸き起こる。 「・・・これはこれは手厳しい。帽子屋も苦労するだろうな。」 ブラッドのいつも吸っている葉巻の臭いとはまた違うそれに、 アリスは思わず顔をしかめる。 「葉巻臭いそうだぞ、残念だったな。エイデン。」 肩をすくめ、礼をとってアリスから離れる。 その顔は、楽しい玩具を見つけた、子供の其れと似ていた。 「一体何なの?何をしたいのか全くわからないわ・・・。 殺すならとっとと殺せばいいじゃないの。 ・・・・私個人の意見としては、殺されるのはごめんだけど。」 男達からかけられるプレッシャーに耐え切れず、 アリスはカルロスを睨みつけ、震える声で噛み付いた。 そんなアリスを真正面から見返し、カルロスはゆっくりと近づいてくる。 「君は大事な大事なお姫様だ。我らにとっても帽子屋にとっても。 そして、帽子屋に対する我らの報復の鍵だ。 あの日私は、名誉も、地位もブライドもズタズタにされた。 体まで失ってしまって不自由を強いられている・・・。 私の味わった屈辱、侮辱、恥辱。 それら全てを余すところなく帽子屋へ、君の夫へ味あわせてやりたいのだよ。 しばらくは生かしておいてやるが・・・ ・・・あまり調子に乗るなよ小娘。」 笑顔だが、目が笑っていない。 アリスの羽織っているコートを掴み、目線の合う位置にまで引き倒した。 「・・・貴方達、馬鹿じゃないの。 ブラッドがこんな所にのこのこと出てくるはずがないわ。 たかが余所者の、こんな小娘の為に、ありえないわよ!」 その時、軽く扉を叩く音がアリスの耳に届いた。 静かに部屋へ滑り込んだ男は、車椅子の男に何事か耳打ちをした。 今まで浮かべていた笑顔が潮が引くように消えていく。 アリスは引き倒されていたせいで、間近でその豹変する姿を目の当たりにした。 とても人間の浮かべる表情とは思えない。 アリスの元いた世界でも見た事のないものだった。 「通せ。」 目を鈍く光らせて、言葉を告げる。 黒服の部下が慌てて数名部屋を出て行く。 アリスに向き直ったカルロスは薄く笑い、声を掛ける。 「アリス、君の王子様が迎えに来てくれた様だよ?」 |
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