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運命の恋の殺し方 例えば指の絡め方だとか、ふと感じる匂いだとか 無意識の仕草だとか、何かを潜ませた瞳だとか もっと言えば当然の様に身を進めてくる不遜さとか。 絡めてくる舌の動きだとか、その瞬間の顰められた眉だとか。 全部自分のものだったらいいのに。 アリスはシーツの上でぼんやりとそんな事を考えていた。 むせ返る様な薔薇の匂いの中で、 無遠慮に這わされた指にゆっくりと瞼を開く。 「もっとイイ顔ができるはずだろう?」 顔を寄せてそんなセクハラまがいの言葉を吐く男に、 痺れる頭で必死に言い返す言葉を拾う。 「だって良くないのにそんな顔できないわ。」 喧嘩腰の言葉はブラッドの加虐心に火を着けた様だ 「上等だ、お嬢さん。」 にやりと口角を上げた男は、アリスの更に深い所を探る。 声にならない声を上げるアリスを更に煽るかの様に執拗に迫る。 ちゃり。 握り締めた小瓶が小さく音を立てた。 その音をブラッドが聞き逃すはずが無い。 手を伸ばしたときにはもう遅い。 手袋を外した素のままの手で小瓶はブラッドに奪われてしまった。 「なんだ、まだ帰りたいのか?」 ブラッドは呆れた様に軽く小瓶を振る。 「私は君に十分愛を囁いてきたつもりだし、 それを形でも態度でも表してきた。 君は私の好意に応えるべきだよ、アリス。」 「私は愛なんて要求した事はないわ。 勝手に押し付けといて私にどうして欲しいのよ。」 ブラッドの手からすばやく小瓶を奪い取り、背中に隠す。 「私を一度でもいい。好きだと言えばいいんだ。」 心の奥底まで見透かすような緑色の瞳に、 アリスは怯えて震える体を必死で押えつけた。 「・・・好きでもない相手に言っても意味ないわ。 それとも、そんな薄っぺらい言葉でいいわけ?」 「あぁ、構わないよ。 君は私を好きだ。間違いなく愛している。 君の性格ぐらい把握しているさ、見くびられては困る。」 てっきり黙り込むと思っていた男の言葉に、 アリスは逆に黙りこまされてしまった。 「君が私を好きだと言葉に出す事こそが、 私にとって意味のある事なのさ。」 じわじわとアリスの逃げ場を、当人に見せつけながら削ぎ落として行く。 アリスは、いくら好きだからといって ブラッドと同じ香水を付ける気にもならないし、 ブラッドが好んで吸っている葉巻に手を出してみようとも思わないし、 彼の為にマフィアの空気に染まろうなんて事もしない。 共通のものを作ってしまえば、元の世界に戻った時に それは抗い難い鎖となってアリス自身を縛り続けるだろう。 でも、本当は。 「ねぇ、ブラッド。」 「ん?」 「私が貴方を捨てて、元の世界に戻ったらどうするの?」 「愚問だな。そんな事態にはならない。」 「もしもの話よ、ねぇどうするの?」 「・・・・君望むのなら、そこの本棚にあるおとぎ話の様に迎えに行くよ。」 「到底あなたの性格からして考えられないわ。」 思わずかぼちゃパンツに白馬に乗ったブラッドを想像して、アリスは吹き出した。 自分の脳は、姉の少女趣味に大分影響されてしまっている様だ。 クスクスと声を漏らして笑うアリスにブラッドは頬にキスをする。 「その先を聞きたくないか?」 「その先?」 「あぁ、まさか君は『めでたしめでたし』の一言で その世界の全ては、何もかも終わったと思っているのか?」 現実主義の君らしくも無い、と目でそう続ける。 「まぁ、言われてみればそうよね。」 「そうだとも。 私だったら君がこの手に戻ってきたなら 迷いもなく、その手足を使い物にならなくして 誰の手も届かない高い塔の中に閉じ込めるだろう。 手には手錠を、足は腱を切って。」 「・・・やっとブラッドらしくなったわね。」 言われている事は物騒な事この上ないのに、不思議な安心感がある。 追われる様な焦燥感も、ブラッドの言葉で跡形もなく消えてしまう。 にっこりと笑った男は、またアリスの肌へ指を滑らせていく。 ブラッドはいつも左胸から肌に痕を付けていく。 まるで隠された心臓をなぞる様に。 「私だったら・・・・。」 擦れた声でアリスが声を上げる。 「ん?」 「私が逆の立場だったら、 ・・・そのそぶりを見ただけで殺してしまいそう。」 まっすぐにブラッドを見るアリスに、 ブラッドは心底嬉しそうに顔を綻ばせた。 「私だってそれを堪えているんだよ、アリス。」 うっとりと心臓に刃物を当てるかの様に、アリスの左胸に手を置く。 「だってこの感情を何て呼ぶのか、誰も教えてくれなかったもの。」 |
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