砂漠の薔薇

ギルカタールでは手に入らない宝石や芸術品が所狭しと大広間へ運び込まれ、
この日ばかりは貴族や侍従問わず、浮き足立って買い物を楽しんでいる。
犯罪大国の名の通り、密売人や輸出入禁止の商品まで紛れ込んでいるが。

「チェイカ、これどう?似合う?」
「う〜ん、こちらの方が、御髪に映えると思いますわ。」
召使数人に囲まれて、アイリーンは東方から運ばれた絹の織物を手に取っていた。
「でもこの色合いの物ってもう持ってるのよね・・・。
あ!こっちのなんか素敵じゃない?」
きゃぁきゃぁと女官達が騒ぐ。
どちらかと言えばあまりファッションに興味が無いアイリーンも、この日だけは別だ。
女官達と一緒に珍しい布地や装飾品を見つけては騒ぐ。
商人達も必死だ。
王女アイリーンを初め、王族の者に気に入られたら一攫千金も夢ではない。
あの手この手で商品を薦めてくる。

熱心に商品を勧める商人達の中に、見知った顔を見つけてアイリーンは呼び止めた。
「あら?シャーク、シャークじゃない!」
「おう、姫さん!久しぶりだな、気に入った商品は見つかったかい?」
人だかりの中を潜り抜けて、ギルカタールきっての大商人の元へアイリーンは駆け寄った。
「まだ一つも買ってないのよ、ねぇシャーク。
何か珍しくて、面白い物は取り扱ってないの?」
わくわくしながらアイリーンは元婚約者候補に尋ねる。
「たっくさんあるぜ?この間、密輸したての暗殺用具とか、勿論毒薬はあるだろ、
あと、拷問具なんかも取り扱い始めて・・・・。」
「あ〜・・・・もっと無難な物ないの?使うのは私なのよ?」
「じゃあ最近、俺が立ち上げたシャークブランドのドレスなんか・・・。」
「あんたの成金趣味のドレスなんて着たくないわ。
どうせゴッテゴテの豹柄のキンキラキンでしょ。それ最凶で最悪だわ。」
「ひっでぇなぁ〜・・・(何で分かったんだ??)。」
ぽちぽりと顎を掻きながらシャークは手元の商品目録を読み直す。
「あ!これ何?すごく綺麗!」
たくさんの商品の影に隠れて小振りの硝子瓶が転がりでた。
「あ、そりゃあ・・・」
シャークの戸惑う声が聞こえたが、構わず拾い上げる。
様々な方向にカットされた硝子瓶が、光の角度によってキラキラと光る。
その中身は薄紫色の液体で満たされていた。
うっとりと眺めていると、シャークの咳払いが聞こえた。
「ひ・・・姫さん、それはな、あ〜・・・その、何だ。う〜・・。」
はっきりしない男にアイリーンは流石に焦れて詰め寄る。
「何?何なのよ。毒薬?」
たしかに外見はそれっぽい感じだ。
「いや、毒薬じゃねぇ。それは・・・」
額からじっとりと汗をかき始めた男に、怪訝そうにアイリーンは問いかける。
「じゃぁ何?自白剤か何かなの?これ。」
「自白剤っちゃぁ、そうかもしれんが、これは・・・」
「本当!?自白剤なの?面白そう、これ頂戴!」
とたんに上機嫌になったアイリーンの気迫に押され、思わずシャークは頷いてしまった。

数週間前に終わった、国王夫妻とギルカタール第一王女アイリーンとの賭けは
大方の予想を裏切りながらも、王女アイリーンに軍配が上がった。
その期間中の25日間の間に、婚約者候補達全員の心を奪ったシモンの申し子アイリーンは
北の跡取り、幼馴染スチュアート・シンクと正式に婚約してしまった。
国王夫妻は夫婦揃っての旅行中の為、王女アイリーンの婚約を止める者は誰もいない。
カーティスは荒れ、以前より毒薬を仕入れる様になり、
噂では虎視眈々とスチュアート・シンクの暗殺の機会を狙っているという。
自分も全力でカーティスを応援したい気持ちは山々なのだが、
いかんせんまだ、失恋の傷が癒えきっていない。

ちなみにあの薬は媚薬だ。女には効かない男専用。
それもドギッツイ。端的に表せば、馬用。
その手の通称が“砂漠の薔薇”。
水に溶かすと薄紫色が琥珀色に変わる。
口当たりは滑らか。酒の飲めない奴でもガンガン飲める口当たり。
王女アイリーンが(用途を知らずとも)その薬を使う相手と言えば
婚約者スチュアート・シンクをおいて他には無いだろう。
自分で自分の傷を切開してしまった商人兼医者は
それからしばらくは王宮に姿を見せなかったという。

「・・・美味いな。」
夜の闇の中、仄かに灯りを灯したアイリーンの部屋で
風呂上りのスチュアート・シンクはくつろいでいた。
ソファに座り、左腕でアイリーンを抱き寄せながらグラスを傾ける。
「最初酒かと思ったが、違うらしい。これなら私でも飲める。」
にっこりと傍らの恋人に微笑みかけるスチュアートに、
アイリーンは思惑を顔には出さず心の中でガッツポーズを決めた。
「最近、疲れてるみたいだから作ってみたのよ、栄養ドリンク。
お仕事お疲れ様。美味しいって言ってくれて嬉しいわ。頑張って作ったの。」
そう言って体を摺り寄せるアイリーンのあまりの可愛らしさに、
スチュアートは闇の中でも分るほど、頬を紅潮させた。
シャークの事はおくびにも出さず、天使の様に微笑むアイリーンは正に悪魔だった。
「ねぇ、スチュアート。私の事好き?」
「何を今更。想っていなければ、こんな関係になぞなるものか。」
アイリーンの髪を撫でながらはっきりとした口調で答える。
「じゃあ、私が今から聞く事にも正直に答えてくれるわよね?」
とろんとしたスチュアートの目を見て、
そろそろ自白剤が効いてきたと察したアイリーンは更に問いかける。
「勿論だ。お前の言う事なら何でも答えてやろう。」
更に体を密着させてきたアイリーンに気を良くしながら額にキスをする。
「私の事、どれくらい前から好きだった?」
「初めからだ。幼い時からずっと。
お前以外にこの胸に住まわせた女はいない。」
今度はアイリーンが頬を染める番だった。
自分もそうだとは、あまりに照れくさすぎて言えない。
「じ、じゃあ、私のどこが好き?」
「藍色の髪も美しいし、磁器のような肌も堪らなく好きだ。
お前の声は何を喋っていてもよく響く。
私にとってみれば罵声でさえ愛らしい。
芯が強すぎる性格も実に可愛らしくて私を縛り付けてならない。
・・・つまり全てだな。愛しいお前の為なら、私は命を捨てても構わない。」
真正面から見返される紫の瞳に耐え切れず、顔を男の胸に埋める。
『ブラボーーーッ!!!シャーク!すばらしいわっ!!!!』
更に心の中でハンドアップをした一国の王女は有頂天だった。
「だが・・・・・・」
スチュアートの纏う雰囲気が一変して変わった。
不思議に思ったアイリーンは怪訝そうに顔を上げる。
「私が想っている程、お前は私を想ってはいないようだな。」
ひんやりとした顔でねめつける様に睨まれる。
「は・・・話がズレてきてるわ、スチュアート。」
身の危険を感じたアイリーンが身を離そうとすると、凄い力で押し倒してきた。
「・・・こんなに愛しているのに。」
常には無い熱い声が耳元で囁かれ、アイリーンの心臓が跳ね上がる。
心なしかスチュアートの肌も、吐息も熱いものに変わっている。
男の暴走ボタンをガンガン押し続けていた事にようやくアイリーンは気付いた。
首筋を這う唇の感触が、肌を粟立たせる。
最早甘い声しか紡がれなくなったアイリーンの唇を、スチュアートの親指が塞ぐ。
舐めろとでも言う様に蠢くそれに、おどおどと、アイリーンの舌が絡みつく。

結局、アイリーンは本当に聞きたい事も聞きだせず、
体力の全てを根こそぎ奪われ丸一日寝込んだ。

『今度はもっと薄めて使ってやるわっ!!』
砂漠の薔薇の本当の効能を王女に教えれる人間はシャークのみ。
未だ懲りずに思案を練っている王女にはまだまだ過酷な試練が待ち受けているのだった。





頑張れアイリーン。
そしてもっと頑張れスチュアート。
スチュアートの次にシャークが好きですv
貧乏くじを引かせてごめんよ・・・・。
続きは裏を作ったら載せたいな♪♪