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ノスフェラトゥの鎖 目の前にはアヒルや小型のヨットの模型やらが ぷかぷかといくつも湯の波間に漂っている。 「・・・・インテグラ。 お前、今年で幾つになる。」 「13よ。それがどうかした?」 呆れた目でそれらを眺めながら、インテグラを引き寄せた。 湯が僅かに波打ち、ヨットの玩具の進路が変わる。 「そろそろこいつらを処分しろ。」 男の胸板に背を凭れさせながら、少女は不思議そうに言い返した。 「んー。父上とも体が悪くなる前までは一緒に入ってたが、 そんな事は一度も言われなかったぞ?」 「・・・・・そうか。」 「それより、アーカード。 本当にこんな事で絆が深まるのか? 第一、吸血鬼が風呂に入るなんて聞いた事ないぞ。」 ちゃぷちゃぷと波を掌で叩いて遊ぶ主人の子供っぽさに アーカードは溜息をつきつつも、 面白い玩具でも見るように眺めていた。 インテグラがいまいち手綱を握りきれていない従僕の扱いに悩み、 本人にどうしたらいいか打ち明けたのは数ヶ月前。 真剣に悩み、今までウォルターにも心配をかけまいと秘めていた悩みを 解決できる見通しも立たず、ついにその張本人へ打ち明けると 当の従僕は、間髪いれず言ったのだ。 『一緒にお風呂に入りたい』、と。 その場でまぁ、それくらいなら良いかと頷きそうになったが 付いてきたウォルターの般若の様な顔色を見て、 慌てて首を横に振った。 それから顔を合わせる度に一緒にお風呂に入りたいと執拗にせがまれ ウォルターに内緒で一回だけ入る事になった。 小さい頃から娘を溺愛する父に過保護気味に育てられたインテグラは 世間の一般常識が欠如している事が多々あった。 父親や書物からは、魔物は水に弱いと聞いていたが、 アーカードにとってみれば そんなに弱点という程のものでもないらしい。 試しに5分ほど、首を力一杯押えつけて浴槽に沈めてみたが 多少暴れただけで、水の中で大人しく浮いてきた。 湯あたりをしたのか、少し不機嫌になったが、 こうして浴槽に一緒に入ると、打って変わって上機嫌になった。 「無論だ。ボディタッチはコミュニケーションの基本だぞ。」 さも当たり前のように抱きかかえ、浴槽を飛沫をたてて後にする。 荷物の様に運ばれたインテグラは胡坐をかいた男の膝へ乗せられた。 大理石をふんだんに使った床はアーカードが蹴飛ばした 玩具や小物達が散乱していた。 金の髪へシャンプーを馴染ませるとふわふわとした泡が 長い髪に満遍なく広がってゆく。 眼鏡をとった顔は、未だ年相応の幼さと無垢を残していて アーカードが髪に添えた手を動かすたびに小さな頭が揺れる 「・・・・・・・。」 湯船で火照った肌に、従僕の冷たい肌が心地いい。 頭を洗う手が、亡くなった父の掌の大きさと被る。 うとうとと眠り込みそうになった時、頭から湯をかけられた。 「ん・・・アーカード?」 ぱちぱちと目を瞬かせ、しきりに顔の水気を手でふき取る。 「今度は私が洗ってあげる。腰のタオル取って。」 少女の口から放たれた一言は、 幾年も経た不死者の男の思考を一瞬にして凍りつかせた。 「・・・・これはこれは。 我が主自ら体を洗って下さるとは・・・。 しかし、残念ながらお前の国と私の生まれた国では 入浴の仕方、体の洗い方まで全く違うのだ。 私の生まれた国ではその様な無粋な物では体は磨かんのだよ。」 しばらくして衝撃から立ち直ったアーカードは面白そうに口を開いた。 泡立ったスポンジを手に、きょとんとインテグラは立ちすくむ。 はたから聞けば、明らかに大嘘をついていると分かりそうなものの、 目の前の一本気で純粋な少女には 強欲でしたたかな魔物の嘘を見抜けなかった。 「じゃぁ、タオルとかで洗うの?」 「いいや、違う。」 「んー、分かった!ボディブラシ?」 「それも、違う。」 「・・・じゃあどうやって洗うの?」 無防備に聞き返した、あまりにも幼い主人に不死者の男は 内なる熱情を押し殺して、親切げに微笑んだ。 「では、私が先に手本を見せるから、同じ様にやってみろ。」 「んゃ、・・・あっ、ん、ん、んっ」 男の骨ばった手がインテグラの肩をゆっくりと滑る。 ぬるぬると泡を絡めた指が胸から下腹を擦り、 声を押し殺しても、小鳥を握りつぶす様に声を搾り取られる。 「手が、動いていないぞ。インテグラ。」 ビクッと身を竦めたインテグラは、慌てて泡を手に取る。 アーカードの広い肩から、鎖骨辺りを恐る恐る指で擦ると、 男は僅かに片目を細め、笑みを深くした。 「ふ・・・っ、くぅ・・・んっ」 インテグラの下唇を噛みながら、何かを堪える様に俯く仕草に アーカードは益々、攻め立てる手を激しくする。 インテグラが手を休めようとする度に、強い刺激が男から与えられる。 徐にアーカードはインテグラを浴室の床に寝そべらせた。 柔らかな金色の髪が、白と黒を基調にした床へ広がる。 上気した褐色の肌が白地のタイルに映える。 「ちょ、・・・アーカードっ・・・ぁ これじゃ、私があらえないっ・・・起こし・・・って。」 インテグラの制止も聞かず、冷たい指を褐色の肌へ擦り付ける。 逆光のため、おぼろげにしか分からないが 垣間見たアーカードは目を細めて、舌なめずりをした。 その表情はまさに父から聞かされていた魔物の笑み。 その美しさをもって、全てを幻惑し、絡め取る。 誘うような、気だるげなその笑みに、 インテグラの心臓は握り潰される寸前だった。 ふと、アーカードの腕が胸から離れ、立てていた膝へ伸びる。 強い刺激が急に止んだ事に安堵したインテグラだったが、 次の瞬間、信じられない光景が目に入った。 従僕の男が脚を割ってその奥を舐めようと、口を僅かに開いている。 インテグラは驚愕し、アーカードの髪を力の限り引っ張ったが 不死者の男は意にも介さず其処へ舌を這わせる。 「やあっ!そこ汚い・・・っや!」 自分でもじっくりと見たことの無いその場所を 冷たい何か別の生き物が侵食してゆく感覚に、肌が粟立つ。 目尻に浮かんだ涙を、留める術をインテグラは知らなかった。 「あの頃、ぐったりとしたお前をパウダールームの化粧台に座らせて ドライヤーで髪を乾かしてやるのもまた一興だった。」 楽しげに昔話をしだした従僕の男へ、インテグラの叱咤が飛ぶ。 「ちょ、やめろ!アーカードっ!!」 インテグラは湯船の中でタオルを剥がされ、奪い返そうとしたが 従僕の手によって、湯船の遥か遠くへ投げ捨てられてしまった。 後ろから首筋に舌を這わせる男から逃れようともがくが、 逃さないとでも言うように両脇から白い男の腕が絡みつく。 顔ごと首筋に埋められると、背にゾクゾクとしたものが走り そのむず痒さにインテグラは思わず身を竦めた。 「まだ慣れんのか。」 喉で笑われ、馬鹿にされたと思ったインテグラは きつく睨みつけ、手元の石鹸をアーカードの眉間に投げつけた。 至近距離から放たれたそれは、軽々と避けられ、 伸ばした細い腕を逆に絡めとられる。 頬へ落とされる接吻も全く慣れない。 ウォルターの留守中はいつもこいつが風呂へ入り込んでくる。 いくら自らの下僕といえど、そこまでは奉仕してもらわなくてもいい。 (というか勘弁してくれ・・・。) 場所は相変わらず、風呂場。 変わった事と言えば、少女が羞恥心を備えた女へ変わっただけ。 湯あたり寸前のインテグラの腰へ アーカードの冷たく硬い、張り詰めたモノが宛がわれた。 ぎゅっと目を瞑ると耳元で、男の笑い声を押し殺す声が聞こえた。 「んぁ・・・っう!・・・ああぁっ・・・!」 粘着質な音をたててインテグラの中へ押し込められたそれに、 藁をも掴む思いで、湯船の縁に手をつく。 「インテグラ、私が分かるか?」 アーカードのいたぶる様な声色に、 羞恥心を煽られたインテグラは無我夢中で叫んだ。 「ば、馬鹿っ!知るかっ、そんな事っ!」 変態!暴漢!鬼!悪魔!と罵り続けるインテグラの唇を 最後まで言わせず無理矢理塞ぐ。 それと同時に腰を突き上げると、嬌声が口の端から零れ出た。 「や、水っ・・・はいっ、入っちゃうっ・・・ゃあっ!」 体ごと持ち上げられる様な律動に、インテグラが限界を訴える。 時間の感覚が無くなり、 ただひたすら従僕から与えられる刺激に耐え続ける。 痺れるような、ちりちりとした電流が頭から全身へ流れ始める。 男の擦り付ける、氷の様な冷たさだった肉杭も、 インテグラの熱がすっかり移ってしまっていた。 一際深く貫かれ、インテグラの体が仰け反る。 反った背中を抱きしめ、男は肩越しに後ろから目元へ接吻を落とす。 「もう一度、体を洗ってやろう。インテグラ。」 インテグラには死刑判決に近い宣告を楽しげに口にする。 (聖水って温めたら効果は無くなるんだろうか・・・。) 無駄だ、この男には効かないと分かっていても思わずにいられない。 いや、さすがに聖水の風呂になぞ長時間浸かっていられる訳が無い。 せめてこんな事を起こす気は失くすはずだ。 (いっそ、もう一度死んでしまえ。) 薄く笑ったインテグラを見て、 何を勘違いしたのかアーカードは更に上機嫌で インテグラの手を取り、その甲に口付けを落とした。 |
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