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※ちょいオゲレツかもです。ご注意を! Lovers Rainbow 街行く人垣が揃いも揃ってこちらを凝視している。 それもそのはず。 帽子屋ファミリーのボスがNo.2と情婦を引き連れて 悠々とショッピングの真っ最中なのだ。 いや、悠々としているのはブラッドだけ。 アリスは殺気立ち、エリオットは大量の荷物と格闘していた。 ステッキをくるくると回しながら、店員に指示を飛ばす。 実に楽しそうなその様子にアリスの怒りは更に増していく。 そもそもの発端は薔薇園でのビバルディの一言だった。 珍しくブラッドが不在で女二人で女の子特有の話題に花を咲かせていると ビバルディが面白そうに尋ねてきたのだ。 「アリス、たまにはあの子からの贈り物を身につけておやり。 まさかクローゼットの肥やしにしてはいないだろうね?」 ぴたりと言い当てられ、溜息を一つつく。 「・・・どうして?私とブラッドはそんな関係じゃないわ。」 「突っぱねてばかりだと男のその気を削いでしまうよ。 それでなくても、あの子は移り気だからね。 女物の香水を付けて帰ってこられても文句は言えないよ。」 「だ、だからそんなんじゃなくて・・・。 ブラッドにも言ってはいるのよ。 あんなにたくさん受け取れないって。 そのせいか最近はあんまりそういうのは無くなったし・・・。」 「無くなった?ほらごらん。例え気が無くとも、 紐で繋いで可愛がるくらいしても良いのだよ?」 アリスはもはや、世間の常識から若干逸れた女王に 突っ込みを入れる気すらも起きなかった。 「では、あれはアリスへの贈り物ではないのだね?」 心当たりが浮かばないアリスを尻目に 少しの沈黙の後、確認するようにビバルディは頷いた。 「数日前に、ブラッドは女物の下着を新調したのだよ。 ん?あぁ、わらわが愛用している仕立て屋に発注したからな。 面白い情報はすぐに手に入る。ふふふ。」 さすがに、アリスはブラッドから下着を贈られた事は無い。 ビバルディ御用達なら、さぞかしセンスの良いセクシーな下着だろう。 アリスにそれは似合わない。他の誰かならともかく。 俯き、黙り込んだアリスにビバルディが頬を紅潮させて笑いかける。 「ああ!可愛いアリス。妬いているの? その目は本当に可愛らしい。もっとよく見せておくれ。」 そう言って体ごと向き直させられ、顔を覗き込まれた。 どこかブラッドに似たその顔に、胸の痛みが酷くなる。 「安心おし、アリス。 女に尽くす精神はわらわが小さい時に仕込んである。 他の顔なしの女どもにお前を苦しませてなるものか。 一度だけブラッドの気が済むまで貢がせておやり?」 言われたとおり、ブラッドに欲しい物があるとショッピングに連れ出した。 始めは上機嫌だったアリスだが、 慣れた様子でエスコートするブラッドに次第に苛立ってきた。 ブラッドにもそれが分かる様で、逆に楽しそうに後ろを付いてゆく。 「あれと、あれ。あっちにあるのも頂戴。」 「いいとも。それだけで足りるのか?」 売り言葉に買い言葉でどんどんエリオットの持つ荷物が増えてゆく。 もう荷物の影からは、殆ど耳しか見えていない。 「あ、あのさ。ちょっとこれ、重・・・。」 「何か言ったか、エリオット?」 表情も変えず、さらっと流す。 「せっかくアリスが駄々をこねているのだから、 それくらいは我慢して運べ。」 アリスへかける声色とはまるで逆の冷たい声にエリオットの耳が垂れる。 こうなったらこの男を破産させるまで買い物をしてやる。 アリスは苛立ちのままに店の商品をよく見もせず、 服や靴屋や、アクセサリー、小物に至るまでとことん買い占めていた。 実際、こんなに必要ではないし使う気も無い。 そうこうしてるうちに、店の周りに街の人が集まってきた。 こそこそと、聞こえない様に耳打ちしあう。 ・・・アリスは今更、ようやく自分が帽子屋の情婦であると 自らアピールしていた事に気が付いた。 ちょっとした買い物を楽しみたかっただけなのに。 この状況は耐え難い。 一番避けたい状況に自分を追い込んでしまった。 それをあざ笑うかの様に、野次馬の嘲笑が聞こえてくる。 「しかし見るたびに違う女だな。」 「いや、今度の女は長いみたいだぞ。 どうやら噂では余所者らしい。」 「この間連れていた女は短かっただけじゃないのか。」 「しっ!聞こえたら大変だぞ。」 本当に・・・外野というものは嫌な情報を教えてくれる。 大体、私は情婦じゃない。 こんな真似も本当はしたくないし、欲しいものは別にある。 こんな風にお金で買うこともできない、 ブラッドにしかどうする事もできない。 代わりのきかない存在に焦がれるのは何もブラッドだけではない。 当たり所の無い感情を持て余し 手当たり次第、目に付いたものを買ってもらう。 何かを埋めるように。 「あれ買って!」 雑念に絡め取られそうになりながら 考えも無く指をさしたその先には・・・・ スキンコーナーがあった。 穴があったら入りたい。 いや、もう穴の中で残りの人生を過ごしてもいい。 凍りつく周囲と、流れる冷や汗。 唯一の救いはエリオットがあの大荷物のせいで衝撃の瞬間を見ていなかった事。 伸ばした腕をゆっくりと下ろす。 全てがスローモーション。 ・・・・なんでこんな所にこんなコーナーが。 自分の無鉄砲な勢いを後悔してももう遅い。 マフィア並みの殺気を込めた視線で店主を睨みつける。 隠れていた店主も真っ青である。 静寂が耳に痛い。さっきまではあれほどに騒がしかったのに。 「ど直球だな。お嬢さん。」 にたにたと人の悪い笑みを浮かべて、アリスの肩に手を置く。 「なんだ?どうしたんだ、アリス、ブラッド?」 間を置いて一層騒がしくなった周囲にエリオットは困惑した。 「あっ、あの、在庫を確認してきま・・・」 「いい!いいからっ!!」 慌てて店の奥に引っ込もうとした店主を速攻で引き止める。 冗談じゃない。在庫があったらこの男に買い占められる。 「これなんかどうだ?暗闇で光るらしい。蓄光タイプだな。」 「光らんでええわっ!!」 髪を逆立てて怒鳴りつけるアリスに、野次馬は更に騒ぎ出す。 「何が光るんだ?」 きょとん、と耳だけ動かして問いかけるエリオット。 「もちろん、私の・・・」 「黙れ、下衆野郎!!」 さも当然と答え様としたブラッドの脚を踵で鋭利に踏みつける。 ブラッドのうめき声と共に、周囲がざわめく。 「蓄光が気に入らなかったのか?」 「余所者って皆そうなのかしら。あれは便利なのに。」 「いや、一見するとフレーバータイプが好きそうだな。」 そんな馬鹿な。違う。 蓄光も香りもいらない。あれにそんな特徴はいらない。 姉がこの現場を見たら卒倒するだろう。 「お会計、こちらとなります。」 レジの開く音と共に、ブラッドが会計を済ませた。 待て。 待て、待たんか。このエロ紳士。 今までカードで買っていたのに、何故これだけ現金で買う。 アホか。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。 ・・・・・そして何故袋に入れてもらわないのよっ! 普通、複数個買ったら袋に入れてもらうべきよ!! アリスの心の声が聞こえたのか、満足そうにブラッドは微笑む。 「大丈夫だ、弱酸性で肌に優しい物も買っておいたよ。」 (この野郎。) 目だけで拒絶すると、 機嫌を伺う様にアリスの両手を取りその場にひざまづいた。 「新しい下着に映えると思うぞ。」 「は?」 「この間新調したんだ。前のはもうベトベトで使えないだろう?」 屋敷に帰ったら見せてやろうと思ってね。と続けるブラッドに アリスは自分の心配事が杞憂だったと気づいた。 同時に先程の羞恥心と怒りが一瞬にして蘇る。 「・・・・エリオット。」 「ん?どしたアリス?」 「荷物から手を離していいわよ。」 「え?それじゃ・・・。」 「いいから!放り出せって言ってるのよ!」 戸惑いながらも持っていた荷物の箱から手を離す。 高く積み上げられた荷物の数々が、傍に居たブラッドに降りかかる。 しっかり帽子まで埋まったのを確認すると、 アリスは鼻息荒く野次馬を見渡した。 人波が自然に割れ、アリスの進む道は潮が引く様に人が避ける。 淑女らしからぬ大股で闊歩する余所者を、周囲は恐怖と畏敬の念を持って見送った。 ただ一人、エリオットは何が起こったのか分からず 箱の山に埋もれ、それでも面白そうに笑い続けるブラッドを呆然と見ていた。 |
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