Early morning tea


(一つ足りない・・・・。)

ヘルシング邸の一切を取り仕切る執事は食器室で懊悩していた。
インテグラのお気に入りのティーセットが1つ無くなっていたのだ。
それはインテグラが小さい頃、先代のアーサーが誕生日の記念に買い与えた物だ。
しかもそれは、毎朝女主人のもとへ運ぶモーニング・ティーを入れる物だった。

この様な失態は初めてだ。
だが今朝、見たときには確かにそこにあった。
昼過ぎに見たときもそこにあったのに。

無くなっている。

そもそもこのセットで無ければインテグラはモーニング・ティーを飲まない。
それ程気に入っていたティーセットだった。
お菊さん状態になったウォルターは
屋敷の使用人達にそれとなく確認して回った。
勿論、内心の動揺は微塵も見せずに。

「セラス嬢、夜分遅くに申し訳ありません。」
地下室の一室の扉を軽くノックして問いかける。
明け方、地下室でハルコンネンを整備していたセラスは、驚いて顔を上げた。
「ウォルターさん?どうしたんですか?」
「少しお時間宜しいですかな、実はお伺いしたい事がありまして・・・」
部屋へ入って早々、近くの椅子へ優雅に腰掛け両手を組む執事に、
セラスは何か大変な事があったのかと、身を整える。
実際、ウォルターは尋常じゃなく焦っていた。
あと数時間でインテグラへモーニング・ティーを出さなければならない。
インテグラはそのカップでしか紅茶を飲まないので、
実質的なタイムリミットは目前だった。

「実は、この様なカップを見かけませんでしたか?」
小さく切り取った写真の端を指し示し、セラスの返答を伺う。
若干拍子抜けしたが、根が素直なセラスは写真を受け取り悩み始めた。
「あ!もしかしてこれ、マスターが持ち込んだ物じゃないですか?」
「アーカードが?」思わず敬称を忘れて言葉を返した。
「はい。夜中に部屋を出て、帰ってきた時には手に持っていましたよ?」
(あの野郎、手間かけさせやがって。)
心の呟きを胸の奥深くに閉じ込め、笑顔を作った。
「左様ですか。有難うございます、セラス嬢。」
「しかし何故この様な地下へ持ち出したのでしょうな?」
「さぁ・・・何か練習するって言ってましたよ?」

( ・ ・ ・ 練 習 ? )
嫌な予感がしてセラスの部屋を飛び出し、更に地下のアーカードの部屋へ向かう。
虫の這う扉を開け中へ踏み込んだその瞬間、ウォルターは固まった。

「・・・・・何をしている。」
そう問いかけるのも馬鹿らしくなるような格好を不死の王はしていた。
自分と同じ格好をしている。
いや、少しカジュアルめだが、間違いなく執事の格好をしていた。

「ウォルターか。丁度いい。こちらへ来い。」
突然のウォルターの訪問に眉一つ動かさず、飄々と話しかける。
「この茶葉は粗悪品ではないのか?思う様に色がでらん。」
あっけにとられていたウォルターは更に鈍器で頭を殴られた様な気がした。
今、この男が淹れているのは超がつくほど高価な紅茶だった。
「これではインテグラへ私の想いを込めた紅茶が出せん、手伝え。」
徹夜で探していたティーセットが、かちゃりと音を立てた。
「貴様・・・一体何を考えている。」
いつもの柔和さを消し去った声色が地下に響く。
「決まっている。
今日は私がインテグラにモーニング・ティーを出すのだ。」
さも当然と言う様に言い放つ。
「清廉なヴェールに覆われた純白の寝台は、
インテグラのすらりと伸びた四肢を包み込み、
さながら一枚の絵の如く、時を止めるような空間だろう。
白いシーツの波間に煌く金の髪を覗かせ、絡め取れば
きっと起きぬけの我が主はこう言うはずだ。

『おはよう、アーカード。
貴方の淹れてくれた紅茶が無いと、一日が始まらないわ。
どうして昨夜は来てくれなかったの?寂しかったわ。』、と。
そしてその淡い桜色の唇をつん、と尖らせ、私に接吻をねだるのだ。
私はモーニング・ティーを淹れる練習をしていたんだよと返す。
すると、インテグラは天使の様に微笑みながら、
『貴方が傍にいてくれれば、目覚めの紅茶なんていらないわ。
貴方が私を目覚めさせてくれればいいんですもの。』、とくる訳だ。
そして鮮やかな朝日に彩られた二人は静かに見つめあい、
静かに寝台へと倒れこみ・・・。」
うっとりと、それはもう彼方を見つめて呟くアーカードに
ウォルターは静かな笑みを口に乗せ、
一言告げた。

「歯ぁ喰いしばれ、アーカード。」




majiで殴られる☆3秒前♪♪
形から入る派なんですね、旦那って。