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Commission 「さて、・・・これで皆そろったな。」 初老の男が口をひらく。 広く薄暗い部屋の中には、大きな長テーブルが一つあり、 両端にスーツを着込んだ男たちが向かい合って座っている。 各々、出されたワインを飲んだり小声で何かを囁きあっている。 クローバーの塔で開かれる会合とは全く別の“会合”にブラッドは出席していた。 明らかに堅気でない者達が揃っている。 それはそうだ、これはマフィアのトップの会合なのだから。 つまらなそうに紫煙をくゆらせ、ちらりと先ほどの初老の男を見やる。 「多少の役者の入れ替えはあったようだが、皆健在そうでなによりだな。」 初老の男は並びそろった男たちを見渡した。 「今日、諸君らに集まってもらったのは他でもない、 例の余所者の事についてだ。」 言いながら、控えめだが細かな装飾を凝らしたテーブルのうえに肘をつく。 かすかにブラッドの目が剣呑さを帯びる。 「あぁ、見た事がある。 たしか、アリスとかいう名前だったな、くどい程の少女趣味の服装は目に付く。」 金髪の端正な顔の若者が横槍を入れてきた。 ふん、と小馬鹿にした様に鼻で笑う。 「帽子屋、君の屋敷に滞在しているそうじゃないか?今日はつれてきていないのかな?」 「彼女は幹部ではない。会合に出席させる意味がないだろう?」 ブラッドが、当たり前だろう、馬鹿か?と揶揄する様な笑みを口の端にのせる。 男の後ろに控えていた体格のいい男が 乗り出すようにブラッドに詰め寄ろうとしたが、片手で制された。 「失礼した。だが、屋敷に囲っているというのに組織の者ではないと? 珍し物好きの君にしては、それこそ珍しいことだ。」 「何が言いたい。」 剣呑さを増した眼でブラッドが睨みつけると、おどけた様に肩をすくませた。 「余所者を情婦にするなんて実に君らしい。 しかしあのアリスとか言う女、上手くやったな。 マフィアのボス、しかも役付きの君に取り入るなんてね。 さぞかし他の女とは違うんだろう。私も彼女の心臓の音を間近で聞いてみたいものだ。 そうだな・・・、ベッドの中でなんて雰囲気があっていいじゃないか?」 「いい加減にしろよ、下世話すぎるぜ!」 後ろに控えていたエリオットが毛を逆立てて怒鳴った。 「私はただ、忠告をしようと思っただけだよ。 彼女は余所者という立場以前に非常に魅力的だ。 聞いたところによると君の所だけではなく、 遊園地や城にも出入りしているようじゃあないか?」 挑発的な笑みをブラッドに向けて、足を組んだ。 「ずる賢い情婦を持つと、いつか寝首を取られるぞ?ん?帽子屋。」 波が引くように男たちの嘲笑の笑いが部屋に響いた。 「くだらん。」 ブラッドはくゆらせていた葉巻を灰皿に押し付けると真顔で立ち上がった。 その顔には先ほどの様な剣呑さは見受けられない。 ただ、能面の様に一切の表情を消したブラッドからは殺気が放たれていた。 周囲の空気を震わせる様な鋭い緊張感に隣席していた男たちが思わず身構える。 ブラッドが手を数回叩いた。 入り口の扉がゆっくりと開いた。 男たちが怪訝そうに顔を見合わせる。 その瞬間。 雷の様な銃撃音が部屋中に響いた。 飛び散る血しぶきと硝煙の香りが辺りにたちこめる。 部屋の外に控えていた、ブラッドの部下たちが一斉に銃撃し始めたのだ。 ブラッドとエリオットは微動だにせず、男たちが銃弾に倒れてゆく様を静かに見つめている。 男たちの阿鼻叫喚の渦の只中にブラッドは居た。 外部と連絡を取ろうとするも、あえなく眉間に銃弾を打ち込まれる者や、 初老の男は反撃を試みようとブラッドに銃口を向け、逆にエリオットに蜂の巣にされる。 さながら部屋の中は地獄絵図の様だった。 それでも、銃撃は止まない。 先ほどアリスを口汚く罵った金髪の男が被弾し、叫びながら床に倒れこんだ。 「帽子屋ぁ!貴様、よくも・・・っ。 このまま、た・・・ただで済むと思うなっ! 報復があるぞ!今に、国中のマフィアが帽子屋屋敷を攻めにくる! お前の可愛い余所者の情婦にも制裁がくだるだろう!」 鉄の弾に両足を打ち抜かれながらも、ブラッドの方へ這いずってくる。 ブラッドは口を歪めながらしゃがみ込み、目を合わせた。 「残念ながら、それは無い。」 「な・・・?」 「何故なら、今日ここに集っている輩の組織は会合が始まって直ぐに潰した。」 金髪の男は、口をぱくぱくさせながら憤怒の表情で叫んだ。 「馬鹿な!そんな筈はない! いくら天下の帽子屋ファミリーだとて、一度に・・・そんな・・・っ。」 信じられん、という様に首を振った。 「・・・勿論、数が多いから選別はしたとも。 “ゴミ”と“クズ”それに・・・、お前のファミリーの様なカスにもならん“虫ケラ”。」 謳うように、愉しそうに、ブラッドは囁く。 「貴・・・様っ、殺してやる・・・っ!」 最後の力で懐に忍ばせた銃をブラッドに向ける。 引き金を引くと同時に、男の右腕が飛んだ。 もんどりうって右腕を押さえる男の背をブラッドが踏みつける。 発射された弾丸は、標的をはずれ、ブラッドが取り出した小刀が男の利き手を切り落としたのだ。 「お前の下らん、下劣な会話にアリスの事を持ち込むな。反吐がでる。」 薔薇の意匠を凝らしたナイフにに男の血が滴り、真紅に染まった。 「屋敷に帰る。こんなくだらん会合に出席する意味が見出せん。 冷めた紅茶を飲んでいる方がまだ有意義だ。失礼するよ。」 いくぞ、とエリオットをひきつれて、けだるげに部屋を後にした。 それに追従して部下達も部屋を出て行く。 部屋には瀕死の金髪の男だけが取り残された。 「なぁ、ブラッド。」 「なんだ?エリオット。」 男の血にまみれたナイフを白い布で拭いながら応えた。 「あいつ生かしてていいのか?また面倒くさい事になるんじゃねぇ?」 「いつかは殺すさ。私の“もの”を侮辱したんだ、じわじわと最高に苦しめて殺してやる。」 ブラッドがにたり、と嗤う。 その仄暗い笑いは実にマフィアのボスらしいものだった。 「どん底から這い上がってきた者を蹴り落とす事ほど楽しい事はないよ。」 芝居がかったいつもの口調でエリオットに話しかける。 「気づいているだろうが、今回の会合はアリスについて話すために開かれたものではない。 少しばかり知恵の働く奴がこの私の弱みを探る為に開いた会合だろう。 着眼点は実に面白いが、最高に胸糞が悪い。 少しばかり相手をいじってやっても良いだろう?」 どうせ潰す予定の連中ばかりだ、と吐き捨てる様に言った。 この後口の悪さはアリスにかまって貰わなければ解消されないとふんだブラッドは、 返り血にまみれたスーツを翻し、アリスをお茶会へ誘うべく屋敷への道を急いだ。 |
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